筋肉運動や疲労するつくりを知ることが筋力強化につながる
1.
筋肉は、走ったり泳いだりなどといった運動をするときにだけ、必要となるものではない。笑う、泣く、食べる、見る、話すなど日常の一つひとつの動作すべてに、筋肉が関係している。それどころか私たちが呼吸し、生きていくために、筋肉は欠くことのできないものなのだ。
人間のカラダには大小さまざまな筋肉が約650もあり、男性では体重の約半分、女性でも約3分の1を占めている。いちばん小さな筋肉は、耳の中にあり、人体でもっとも小さな骨についている。いちばん大きな筋肉は、臂部にある足を動かす筋肉(大殿筋)である。
これら人間の筋肉は大きく分けて心筋、平滑筋、骨格筋の3つに分類することができる。
心筋は心臓をポンプのように動かすもので、平滑筋は血管や内臓をおおって血液の流れを制御したり、消化管に食べ物を送ったりなどの働きをする。骨格筋は読んで字のごとく骨格につき、カラダを動かしているもの。赤と白のしま模様が入っているので、横紋筋とも呼ばれている。人体の筋肉のほとんどはこの骨格筋で、私たちが普段「筋肉」と呼んでいるのは、大抵この骨格筋を指す。骨格筋は常に骨を挟んで2つが対になっており、一方が収縮するともう一方が弛緩している状態になっている。
たとえは腕を曲げると、ひじにかけて腕の内側にある上腕二頭筋が収縮し、上腕骨を挟んで、その反対側にくっついている上腕三頭筋が弛緩するといった具合だ。この対になっている筋肉のことをそれぞれの拮抗筋という。つまり、上腕二頭筋の拮抗筋は上腕三頭筋であり、その逆に上腕三頭筋の拮抗筋は上腕ニ頭筋である。
また、心筋と平滑筋は「不随意筋」といって、自分の意志で動かすのではなく、自律神経によってコントロールされている。これに対し、骨格筋は「随意筋」といって、自分の意志で動かすことができる。不随意筋と随意筋では、構造も動き方もまったく異なる。ここでは、主に随意筋である骨柊帽筋について取りあげる。
筋肉は繊維の束でできている
骨格筋をよく見てみると、細かいすじのようなものがたくさん集まって、ひとつのかたまりになっているのがわかる。
このすじを「筋線維」という。筋線維は1本の幅が0.1ミリほどの糸のようなものである。
この筋線維は、「筋原線維」と言われる細胞が束になってできている。ひとつの筋原線維は幅が1ミクロンほど、つまり千分の1ミリしかない。電子顕微鏡でもはっきり見えない世界だ。
さらに、ひとつの筋原線維をよく見ると、数多くものタンパク質分子である「筋フィラメント」が含まれているのがわかる。この筋フィラメントは、太いタイプの「ミオシンフィラメント」と細いタイプの「アクチンフィラメント」の2種類ある。後述するが、この筋フィラメントの働きが、筋肉の収縮に大きく関わっている。
このように筋肉を分解していくと、最終的には2種類の筋フィラメントにたどりつくというわけだ。
筋肉の疲労
私たちは長時間運動すると、筋肉のはたらきがにぶくなり、疲労を感じます。しばらく休むと回復します。筋肉の疲労は、収縮中にブドウ糖が解糖によって分解され、その結果、乳酸が筋肉内にたまってきて、神経の刺激に対して円滑に反応できなくなるためと考えられています。乳酸は、かなりの部分が血流によって肝臓へ運ばれて処理され、 一部は筋細胞内のミトコンドリアで分解され、筋肉のはたらきがもどります。
筋肉の収縮‐弛緩の程度は、筋肉の感覚器官によって感知されています。サルコメアの長さの変化は前に述べた筋紡錘によって、張力発生の程度は腱のところどころにある「腱紡錘」によってキャッチされ、その信号は小脳をへて大脳に送られます。筋肉活動が低下すると、大脳は疲労を感じることになります。
そこで休息して血行をよくして回復させるわけです。筋肉という運動器官に、このように短縮と張力それぞれの状態をキャッチするセンサーが備わっていて、その情報によって運動をコントロールする神経系のはたらきにおどろかされます。
2.筋肉のつくり
運動をになっている骨格筋は、前にふれたように多数の細長い筋繊維からできています。
筋繊維は一つの筋細胞ですが、幅0.05ミリメートル、長さは20センチメートル以上におよび、肉眼ではっきり糸状に見えます。しかも、かすかに明暗の縞模様横紋を全長にわたって認めることができます。この筋繊維がいっせいに伸び縮みして、筋肉全体の収縮‐弛緩が起こるわけです。
筋繊維のつくりは、一人世紀ごろからイギリスやドイツで研究され、一九世紀末までに光学顕微鏡を用いておおよその構造が明らかにされました。もっとも、筋肉の横紋を最初に見つけたのは、微生物の発見者アントニー・レーウェンフックです。彼はオランダの小都市の市役所に勤めていましたが、自分でレンズを磨いて作った手製の顕微鏡下で、さまざまな微生物や生体組織を観察しました。
筋肉のつくりをきちんと調べたのは、ドイツの生理化学者テオドル・シュワンとイギリスの眼科医ウィリアム・ボーマンです。この二人は、筋肉が筋繊維からできていることを示しました。シュワンはそのときベルリン大学の医学部助手で二五歳、ボーマンはロンドン大学医学病院助手で二四歳でした。シュワンは、生物は細胞からなるという「細胞説」の提唱、ボーマンは腎臓の「ボーマン嚢」の発見で、ともに高校生物の教科書にもかならず出ています。
骨格筋細胞の特徴は、他の細胞にはみられない「筋原繊維」とよばれる収縮構造がぎっしりと詰まっていることです。筋原繊維東は細長く筋繊維の縦方向に走っています。筋原繊維のつくりについては、 一九世紀末から二〇世紀初頭にかけておびただしい記載がなされました。筋原繊維の″仕切り″は、「ドビー線」「Q線」「アミシ線」などとよばれましたが、前章でふれたようにいつのまにか、ドイツ語の「間隔」の頭文字を取って「Z線」といわれるようになりました。
また、明暗部は、偏光顕微鏡下で見ると明暗が逆転するので、異方性、等方性から、「A帯」「I帯」とよばれるようになりました。いずれも、だれがその名称を提案したのかわかりません。偏光顕微鏡下は、光の波の振動の方向、 つまり簡単にいうと縦波成分と横波成分を選別して試料を見るもので、試料の構造によって見え方が異なります。明るく見えるところは、たくさんのフィラメントが繊維の方向に平行に走っていることを示します。となりあうZ線でかこまれた部分は「サルコメア」とよばれ、筋原繊維の単位となっています。
1969年、ドイツのウィルヘルム・クラウゼは、筋原繊維のA帯は縦方向に平行なフィラメントが集まってできており、収縮のさいには、となりあうI帯から液体をA帯のフィラメント内に取り込んで、サルコメァが短くなると考えました。これは、すばらしい洞察力の所産であって、彼のいうI帯の″液体″を、「きわめて細いフィラメント」に置き換えると、この説は今日でも通用します。
筋繊維のつくり
筋繊維は、運動に適した特別なつくりをもっています。いうまでもなく、運動のための小器官である筋原繊維東が発達しています。それから、筋原繊維をかこむ袋状の膜構造がたくさんあります。筋繊維は巨大な細胞で、700-800個もの細胞核が、細胞膜の下に散在しています。筋細胞膜は、神経の細胞膜と同じように興奮を伝えることができます。筋細胞にだけに存在する細胞膜から細胞内に走る「横行小管」という細い管が、細胞膜の興奮を筋原繊維に伝達します。そのほか、 これは他の細胞にもありますが、細胞内〃工場″ともいえるミトコンドリアやリボソームがあります。いろいろな物質や酵素を溶かしこんだ「細胞質ゾル」とよばれるサラサラした液体が、細胞内を満たしています。
3.運動をささえる器官
動物、植物は、文字どおり「動く生きもの」と、「植わっていて動かない生きもの」を指します。動物のからだには、植物にみられない運動に関与する器官 「運動器官」が発達しています。運動器官といっても、動物の種類によってずいぶん違っています。細胞一個で水中を泳いでいるゾウリムシ(原生動物)は、細胞の表面にたくさん生えている「繊毛」という細い毛を波打たせて水流を起こし、動きます。アメーバは細胞内の収縮繊維のはたらきで形を変えて動きます。そしてクラゲ以上の複雑な動物には、「筋肉」とよばれる特別な運動器官が発達しています。それとともに、筋肉のはたらきをコントロールする神経や、筋肉を支えるつくりがそなわっています。魚、カエル、トカゲ、鳥、ヒトなど脊椎動物では、からだのわくぐみをつくる骨格が発達しており、筋肉は骨を動かしてからだの運動を可能とします。
私たちのからだには、運動器官として三種類の筋肉があります。骨を動かす「骨格筋」、心臓を拍動させる「心筋」、内臓の運動にあずかる「平滑筋」です。外見から区別すると、骨格筋と心筋は顕微鏡下で明暗の横縞が見えるので、「横紋筋」とよばれます。平滑筋には横紋がなく、主として食道、胃、腸、膀洸、子官などに見られます。血管にも平滑筋があって、血管を縮めたり拡げたりします。
私たちは、自分の思うように手をあげたり、足を動かしたりすることができます。これは、脳からの指図が運動神経によって伝わって、それぞれの骨格筋を動かすためです。このように意思によって動かせる筋肉を「随意筋」といいます。他方、私たちが食物を食べると、それは食道をへて胃に送られ、やがて小腸、大腸へとどきますが、 この一連の食物の移動は各平滑筋のはたらきによるものです。この運動は私たちの意思によっているわけではありません。
したがって、平滑筋は「不随意筋」とよばれます。不随意筋は、「自律神経系」によってコントロールされています。ひとりでに拍動している心筋も不随意筋です。このように、筋肉の動きは、神経系によって制御されているわけです。ここでは、骨、筋肉、神経のつくりと、おたがいの関連について、みていきましょう。
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